料理で栄養バランスを保つコツ

栄養

結論:調理で栄養素を損失しない

バランスの良い食事の栄養素の計算方法

バランスの良い食事には、栄養素を考慮した献立に基づいた食事が必要になります。

一般的に作成される献立は、まず任意の期間で必要とされる合計の栄養素を計算します。次にその期間の各食事・料理に栄養素を割り振ります。つまり全てを分量通り摂取することでその期間の栄養素の摂取目標が達成できます。

しかし、計算に使用される栄養素は生の食材の可食部に含まれる栄養素です。つまり、調理で失う栄養素は考慮されず、損失すれば不足が出てしまいます。計画された栄養素を摂取するためには調理による損失を抑えることが必要です。

調理中の栄養素の損失と対策

調理による栄養素の損失を完全に防ぐことは難しいです。しかし、原因や対策を知ることで損失を抑制し、不足する栄養素を補うことが可能です。まずは栄養素の基本である五大栄養素の役割を知り、摂取すべき理由を紹介します。そして、それぞれの主な損失原因とその対策について紹介します。

炭水化物

基本的な役割

炭水化物は人間の主なエネルギー源として使用されます。日本人の食事摂取基準では50~65%を炭水化物から摂取することが目標とされています。また、栄養学的な役割はブドウ糖(グルコース)しかエネルギー源として利用できない組織に供給することです。ブドウ糖をエネルギーとする組織には脳や神経組織、赤血球などがあります。

調理による変化とコツ

炭水化物は加水と加熱によりデンプンを糊化(α化)させ、その状態で食すことです。α化した状態では甘みを感じやすく、消化吸収されやすいというメリットがあります。

炭水化物は糖質と食物繊維に分かれます。糖質は糖単体の単糖類や、それらの結合の量によって少糖類、多糖類に分類されます。糖の結合が少ないほど、分解しやすく甘みを感じます。米や麦の主成分である生デンプンは、ブドウ糖(単糖類)が規則正しく配列した(ミセル構造)糖質です。生デンプンはミセル構造のため、消化酵素が入りづらく消化が悪いです。そこに加水と加熱を行うことで、生デンプンが糊化(α化、加水分解:規則正しい配列の中に水分が入り込みほぐれる)し、分解されやすくなります。そこにアミラーゼという酵素が入ることで分解され、甘みを感じたり、消化されやすくなります。

一方、α化したデンプンが乾燥し水分が失われる(老化、β化)と、再度結合が密になり(ミセル構造)消化されにくく、甘みも感じにくくなります。ただし、規則正しい配列ではないため、生デンプンとは異なります。

タンパク質

基本的な役割

タンパク質は筋肉や臓器、血液、皮膚といった人間様々な組織を構成しています。また、ホルモンや酵素、抗体、神経伝達物質などもタンパク質で構成されています。それにより代謝や免疫、血圧の調整など様々な体の調整を行っています。加えて、炭水化物や脂質が不足した際のエネルギーとしても使用されます。

調理による変化とコツ

タンパク質は、60℃以上では短時間、それより低温ではじっくり加熱することです。また、pHを中性に保ち、酸・アルカリ性の強いもので調理しないことです。タンパク質は熱や酸・アルカリによって立体構造が変化(変性)します。それにより栄養素の損失やおいしさへの影響(基本的には悪影響)があります。

タンパク質を加熱すると水素結合が切れ、表面に疎水性物質が現れ立体構造が変化します。それにより消化酵素の働きやアミノ酸の吸収が阻害され、消化吸収が遅くなってしまします。また、栄養素の損失や、水分が蒸発することによる凝集、パサつき、焦げなど美味しさへも大きな影響を与えます。一般的にタンパク質の変性する温度は60℃前後です。それ以上の温度で加熱する場合は短時間で加熱しましょう。60℃未満の低温調理の場合は時間をかけて変性を防ぎつつ均一に加熱しましょう。

脂質

基本的な役割

1gで9kcalの効率の良いエネルギーとして使用されます。また、細胞膜を構成したり、脂溶性のビタミンを吸収する働きがあります。さらに、ステロイドホルモンに代表されるホルモンの原料となります。

調理による変化とコツ

脂質は、良質な脂質を選択することと余分な脂質を除去することです。良質な脂質とは不飽和脂肪酸を指します。脂質を除去する調理方法としては、肉や魚の皮を除去するや茹でる、蒸す、焼くなどがあります。

不飽和脂肪酸とは炭化水素鎖に炭素の二重結合を持つものを指します。魚やアマニ油などに含まれるオメガ3脂肪酸(メチル基側から3番目の炭素が二重結合)はDHAやEPAの母体となります。オメガ6脂肪酸は植物油やナッツ類に含まれる細胞壁の構成成分です。この2つは体内での生成量が少なく、食事などで摂取する必要がある必須脂肪酸です。また、オメガ9脂肪酸はオリーブオイルやアボカドに含まれ、悪玉コレステロールを減らし善玉コレステロールを増やす効果があります。

一方で、余分な脂質は体脂肪として体内に溜め込まれまれ肥満につながります。現代では脂質を過剰に摂取している場合が多く、脂質の除去が健康のための調理のコツです。茹でる際も煮汁を使わず灰汁を除去すること、焼く際はフライパンよりグリルを使うことでより脂質を除去できます。

無機質(ミネラル)

基本的な役割

体内の役割としては歯や骨の維持、筋肉や神経活動、体液の調整、酵素の活性化など多岐にわたります。無機質栄養素は人体を構成する元素から炭素、酸素、水素、窒素を除く元素です。カルシウムやナトリウム、カリウム、マグネシウム、リンなどが代表的で、この5つについては摂取基準が設けられています。

調理による変化とコツ

無機質を調理する際は水への浸漬や煮込み時間を短くする、茹で汁や煮汁ごと使用することです。

先にあげたの5つの元素などは水溶性(リンは脂溶性のものもあります)です。そのため、水への浸漬や茹でる、煮るなどの操作により水や煮汁中へ溶出します。水への浸漬では5~20%、加熱では50%程度溶出することがあります。浸漬時間や加熱調理などの時間短縮により溶出を防ぐ、または煮汁や茹で汁ごと調理することで溶出した無機質を摂取しましょう。脂溶性は細かく切ることで食材の表面積が大きくなり、栄養素が溶出し易く吸収しやすくなります。

ビタミン

基本的な役割

多くの種類があり、それぞれが様々な健康維持の役割を担っています。具体的には皮膚・粘膜・骨・神経機能などの維持、免疫力の強化、赤血球やホルモンの生成などです。

調理による変化とコツ

ビタミンを多く含む食材は冷凍保存は避け、新鮮な食材を使い、加熱は短時間で行うことです。

無機質同様に水溶性と脂溶性があります。加熱を短時間にする理由は無機質の調理のコツと同様です。また、野菜では呼吸や酵素によって分解されてしまうため、新鮮な方が多くのビタミンを含みます。冷凍保存では細胞壁が壊れ、ビタミンが溶出してしまうためなるべく避けましょう。冷凍する場合は冷凍前に水分をしっかり拭き取ることや、急速冷凍により溶出を抑制することができます。   

まとめ

  • 糖質   :加水と加熱でα化させる。
  • タンパク質:高温(60℃以上)では短時間、低温では長時間加熱する。
  • 脂質   :良質な脂質を選択し、肉や魚の皮を除去する。
  • 無機質  :水への浸漬時間を短くする。茹で汁、煮汁はそのまま使う。
  • ビタミン :新鮮な食材を使い短時間の加熱で調理する。冷凍保存は避ける。

これらの対策を意識して栄養素の損失を防ぎ、栄養価の高い食事を目指しましょう。

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